2006/02/01

オンライン品質工学の難しさ

 オンライン品質工学の難しさは、理屈だけでなく、全体組織の品質方針として顧客の損失まで含めた損失関数の考え方を受け入れられるか、という経営判断の問題ある。

 一定の規模の実験やCAEを伴うパラメータ設計に比べて、オンライン品質工学は手軽であるという印象があった。
必要な数値さえ得ることができれば、あとは計算公式に則 って、最適な工程チェック間隔や修正限界許容差などを算出することができ、その結果に従って工程の管理を行えば、結果としてトータルの品質コストが下がる、という 仕組みだからだ。
ある意味では初期のアイデアが必要ない分、また下流の製造部門で 行える分、ハードルは低いように思えた。
実際、計算に必要な数値は調査を行うことで短時間で得ることが出来たし、計算を行 い、改善品質コストも満足のいく数値となった。しかし、実際にはこれが工程管理に 適用できないのである。

 最も大きいハードルは「最適工程管理条件と、経験的によいと感じる条件のギャップ」であると言える。
いろんなケースがあるだろうが、一般にはオンライン品質工学を適用すると、従来の管理は目先のチェックコスト、修正コストを抑えるために間隔は長くや許容差は甘くなっている(工程内の許容差に入っているのでOK/NGという意味では問題は起こらない)。
この場合、目標値mからのずれによる損失関数から導かれる品質コストが大きくなり、改善の余地が生まれるのである。
最適化した条件は、将来(市場)の品質によるロスコストの低減を先取りして、目先の管理コストのアップを受け入れるべきだ、との判断を迫る。
損失関数をちゃんと説明すれば頭では納得してくれる。しかし、現場の判断ではそうならない。
これは現場の判断を責めても仕方がない話で、要は会社(事業部)として、設計~製造~市場(品証)のトータルコストを最小にするという意思表明とトップダウンのマネジメントがないとできない相談であり、現場の判断では、自部門責任のコストを最小にするという行動は、組織論としては合理的である。

 さて、実践論として品質工学を展開している筆者としては、まず最適とはいかないまでも、いくらかは改善できるという折衷案を提示することを提案する。
例えば、従来 100ロットごとのチェック(=ほぼ修正間隔と同じ周期)が、最適では20ロットだとする。
5倍の頻度での工程チェックは現場としては受け入れられないので、次の3回のチェックを「理由をつけて」導入することを提案した。
 (1)10ロット目:工程修正に よる異常がないかのチェック
 (2)40ロット目:特性の線形トレンドが維持されている かの中間チェック
 (3)80ロット目:修正限界直前のチェック
他にも方法があるが、 なんとか品質工学の理想論を現場へ実装するための苦肉の策である。
実際、最適で20 ロット(頻度5倍)ごとを頻度3倍にしても、品質コストの改善額は10%も変わらなかった。
1事例としての紹介である。


株式会社ジェダイト(JADEITE:JApan Data Engineering InstituTE)

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

品質工学における社会損失の最小化の考え方は、日本の社会風土や過去の仕事の進め方から考えて、全く矛盾したものであるから受け入れられないのが当たり前である。
昨日の「品質工学による技術開発フォーラム」におけるDr.Taguchiのご挨拶にあった自動車の速度違反に対する従来の常識とタグチの考え方の違いは歴然と残っているのである。裁判の行方がどうなるか分からないが、裁判官も品質工学の考え方を理解しない限り被告には不利な裁定を下すことになると思う。裁判の行方に注目したい。
結局は世の中の「ばらつき」という概念が品質工学と異なっていることが問題を生むのである。

つるぞう さんのコメント...

コメントありがとうございます。

結局、今回の事例でも「なぜ良品(許容差より内側)なのに、それよりも前に高い頻度でチェックしないといけないのか」「不良品はお客さんには出荷されないのだから、機能限界外の損失は無意味なのではないか」という議論になり、説得するのに苦労しました。

また、なんとか今回のように担当者を説得して導入できたとしても、過去の工程管理の実績との比較をしようにもそもそも現場や経営者に損失関数を受け入れてもらえないと、せっかく工程が改善されても有り難味が分からないということで、こちらも成果として認めてもらえず・・・という悪循環になりそうです。

別の投稿でも書きましたが、経営者や現場改善の担当者は「今ここ」の火急の成果や誰が見ても分かる目に見える改善が欲しいので、このあたりは当分は根気強くやっていくしかないのかと思います。